「あなたは腹の底から真面目ですか」~漱石『こころ』~
あなたは本当に真面目なんですか
私は過去の因果で、人を疑りつけている
だから実はあなたも疑(うたぐ)っている。
然しどうもあたただけは疑りたくない。
あなたは疑るには余りに単純すぎる様だ。
私は死ぬ前にたった一人で好いから、
他(ひと)を信用して死にたいと思っている。
あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。
あなたは腹の底から真面目ですか
~上・三十一~
私は精神的に癇性なんです。
それで始終苦しいんです。
~上・三十二~
私は私自身さえ信用していないのです。
つまり自分で自分が信用出来ないから、人も信用できないようになっているのです。
自分を呪うより外に仕方がないのです。
私は未来の侮辱をうけないために、
今の尊敬を斥(しり)ぞけたいと思うのです。
私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代りに、
淋しい今の私を我慢したいのです。
自由と独立と己れとに充ちた現代に生まれた我々は、
その犠牲として
みんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう。
~上・十四~
※「自由と独立と己れとに充ちた現代」
漱石文学の一貫した主題。
こうした傾向が、個人の人格や自立の基盤であるとともに、孤独や独善の源泉でもあることを指摘している。(新潮文庫版解説より)
« 「弱い自分」乗り越えた~鈴木明子選手『日本経済新聞』より~ | トップページ | 「あなたは真面目だから」~漱石『こころ』~ »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 漫画『宇宙戦艦ヤマト』読了(2023.02.23)
- 内田樹のグラン論~カミュ『ペスト』より~(2020.04.22)
- 新田たつお『静かなるドン』(2020.02.16)
- 矢部太郎『大家さんと僕』(2018.11.16)
- 漫画『君たちはどう生きるか』(2017.12.02)
最近のコメント